近年のハイスペックカメラの連射枚数はとても多い。
少し前まで秒間20コマでもすごいと思っていたが、いまは秒間40コマや画素数を落とすことで秒間120コマというスペックのカメラも出てきた。
「そんなに連射するなら動画で撮ってその一コマを写真にすればいいじゃん」と、つい口を滑らせてしまうとカメラ中級者以上の写真撮りからご指摘を受けることになる。
なぜなら、写真と動画とでは撮影方法がまるで異なるからだ。
動画の一コマを写真にする機能としてパナソニックの4Kフォトがあるが、近年の新設計のカメラにはこの機能は搭載されなくなった。
それはなぜか。
今回は、動画の一コマは一枚の写真にはならないことについての解説を残していく。

ここ数年のカメラは、イメージセンサーやレンズの描写力と画像処理エンジンの著しい向上により、誰でも簡単にキレイな写真を撮影できるようになった。
これはスマートフォンのカメラに顕著に表れており、肉眼で見るよりも鮮明な写真が誰でも撮影できる。
このようなハイクオリティな写真が当たり前の時代になったことから、写真を見る目がどんどん肥えていると感じる。
一方で、動画の一コマから抜き出した画像はどうだろうか。
映画のパンフレットには劇中のシーンが多数掲載されている。
しかし、映像の一コマであるためか、写真としての画質に物足りなさを感じる。
動画と静止画ではそもそも画素数が違う、圧縮方法が違う、取り込み時の色深度が違う、と様々意見はあるだろうが、明確な違いはシャッタースピード(露光時間)と画像の役割が異なるためである。

まずはシャッタースピードについて解説する。
動画撮影の際のシャッタースピードは「フレームレート×2」の値に設定するのが定石である。
多くの映像作品は秒間30コマ(30fps)であるため、この場合はシャッタースピードを1/60秒に設定する。なお、映画は秒間24コマなので、シャッタースピードは1/48秒となる。
一方、静止画である写真のシャッタースピードの設定値は様々だ。対象物や周辺の光量、撮影手法により大きく異なる。
スナップ撮影における日中の野外では1/500秒から1/1000秒程度が多いと思うし、曇天であっても1/250秒前後だ。
しかし、動きを強調したい場合や、光量が少ない夜景などの撮影では1/50秒から数秒程度で撮影するし、星空の撮影では数十秒に設定することもある。
では、なぜ動画の撮影に限っては1/60秒となっているのか。
静止画や動画に関わらず多くの場合において、シャッタースピードが1/60秒では露光時間が長過ぎるため、レンズを大きく絞る必要があるし、意図した絞り値で撮影したい場合はNDフィルターで減光しなければならない。
そこまでしてでも、シャッタースピード1/60秒を守らなければならないのだ。
それはなぜか。

その1
フリッカー融合頻度という言葉がある。
Googleで検索すると次の結果が表示される。
「光が一定の頻度で明滅や遮断を繰り返すときに、ちらつき(フリッカー)から融合して持続光のように見える境界値の頻度」
人間の目のフリッカー融合頻度は70~100Hzだそうだ。
子どもの頃、目の前で鉛筆を上下に揺らすと曲がって見える遊びをした。
高速で対象物が移動し、人のフリッカー融合頻度である70Hzでもその形状を識別できない場合はブレてしまい、鉛筆が曲がって見えるのだ。
なお、ハエのフリッカー融合頻度は300Hzらしい。
蠅叩きを70Hzである人の目にも止まらぬ速さで振りかざしたとしても、奴等の300Hzの目では識別出来るのだ。
どうりでなかなか命中しないわけだ。

その2
秒間30コマの動画を1/30秒のシャッタースピードで撮影する。
この場合、1秒間に30枚撮影するため、イメージセンサーは常に露光した状態のまま画像を取得し続けていることになる。
露光し続けるため映像は連続した動きをずっと撮影しており、記録された映像には途切れている瞬間がない。
その倍のシャッタースピードである1/60秒では、1/60秒間露光したあと1/60秒間露光しない時間がある。これを1秒間に30回繰り返しすことで30枚の画像の動画データとして取得している。このとき、1秒のうち合計で0.5秒間を露光したことになる。
では、シャッタースピードを1/600秒にするとどうか。
これは、1秒を600分割したうち、等間隔で合計30枚の画像を取得して1秒の動画としている。
つまり、1秒のうち合計で1/20秒間(30/600秒間)しか露光していないことになる。
1/600秒で撮影した後、19/600秒間(約0.03秒間)待機し、また1/600秒で撮影して19/600秒間(約0.03秒間)待機し、また1/600秒で・・・と、これを1秒の間に30回繰り返す。
1秒のうち、露光している時間(30/600秒=1/600秒×30コマ)よりも、露光していない時間(570/600秒=19/600秒×30コマ)の方が長い状態となる。
なお、人はまばたきをしない限り常に対象物を見ていることになる。
1秒間の露光時間(と便宜上表現する)は1秒だ。

その3
駅のホームに立ち、目の前を特急電車が通り過ぎている。
無意識に窓の形状などを目で追いかけるが、ある程度まで過ぎ去るとまた視線を戻して同じように目の前を通過する窓を追いかける。
人はフリッカー融合頻度を超えて移動する対象物に対しては、目で追いかけて形状を認識しようとするようだ。

その4
アナログTV放送時代のNTSC方式のフレームレートは29.97Hzである。
デジタルTV放送に移行する際にもこのフレームレートが踏襲され、現在でもTV放送は29.97Hzまたはその倍の59.94Hzとなっている。
これらの4点を踏まえると、シャッタースピードは1/60秒が妥当と思われる。
人間のフリッカー融合頻度である70Hzに近く、それでいてアナログ時代と同じ感覚以上で鑑賞できる値が1/60秒である。
本来であればシャッタースピードはフレームレートと同じ1/30秒としたいところだが、高速で移動している対象物に対して、人は無意識に目で追いかけて形状を認識しようとするため、1/30秒では被写体ブレが大きく発生し、正しく形状を描写することができない。
逆に1/600秒などの極端に大きな値に設定すると形状は描写出来るようになるが、今度は露光している時間よりも露光していない時間の方が大きくなってしまい、動きのある映像にならない。
シャッタースピード1/60秒とは、人のフリッカー融合頻度と映像規格に対して双方に寄り添えるよう熟慮した結果の値なのだ。
なお、映像の世界には秒間30コマではなく、倍の60コマ(60fps)で撮影された作品もある。
この場合でも、シャッタースピードは1/60のままである。
こうすることで1秒間の合計露光時間が1秒となり、人に近い露光時間とフリッカー融合頻度で撮影出来るため、より自然で滑らかな映像を取得することが出来る。

次に画像の役割について解説する。
動画は静止画の連続であるという言葉を聞いたことがある。
皆様の中にも聞いたことがある方もおられると思うが、これは単なる動画データの構成を表わしている機械的な表現に過ぎない。
人はTVや映画を見て「静止画の連続だ」とは感じない。
実際に人の目が見ている現実世界は、静止画の連続ではなく途切れることなく繋がったひとつの動きの流れを見ている。
目の前で手を振っても、手を振っている一連の動きの流れを途切れなく見ているのであって、高速で手を少し動かして一瞬止め、また高速で少し動かして一瞬止め・・・という動作を繰り返しているわけではないし、ましてや1秒間に30回まばたきしながら見ているわけでもない。
そのため、動画の撮影においては、人の目で見たような自然に途切れることなく繋がったひとつの動きの流れとして記録しなければならない。
従って、動画の中の一コマの静止画は「直前と直後のコマを繋げる動画の一部」であり、写真ではないのだ。
写真は、一瞬やあるいは数十秒といった時間を表現した画像であり、動画の一コマとは撮影の手法がまるで異なる。
それ故、写真と動画の一コマは役割が全く異なるのだ。
映画のパンフレットにある劇中の一コマの写真に物足りなさや違和感を感じるのはこのためである。
パナソニックの4Kフォトは写真遊びとしては面白い機能だが、カメラ中級者以上にはあまり使われない機能であったため、搭載されなくなったのだろう。
人が閲覧する前提の画像は、スチル機能で取得した静止画が理想である。
写真作品とするのであれば、尚更である。