所作としてのチンピングを考える

知見

チンピングという言葉をご存じだろうか。

チンピング(Chimping)
「撮影する度に背面モニターで写真を確認する行為」

背面モニターがあるデジタルカメラであれば当たり前の行動のように思えるが、その様子がまるでチンパンジーが写真を撮っているかのようであることからその名が付いたようだ。
随分と悪趣味な呼称だと感じるが、今回はこのチンピングについての考えを残しておく。

LEICA SL2-S | LEICA Summilux-M 50mm F1.4 ASPH.(5th)

チンピングは写真撮りの所作としてスマートではないと言われることが多く、この言葉にポジティブな印象は無い。
僕自身、チンピングは悪いことではないと考えているが、ふと思い返してみると、スマホで撮影している人はあまりチンピングをしないことに気が付いた。
スマホ写真はSNSにアップすることも多いため、撮影直後にスマホ操作をする人は多い。
だがそれは撮影写真を確認しているよりは、SNSにアップする操作をしていることが多く、撮影直後にその写真を眺めてから次の操作をする人は稀なのではないかと気が付いた。
僕自身もLINEで写真を送ることがあるが、そのときは即行性を意識しているせいか、写真の出来についてはあまり関心が無くすぐに送信している。

しかし、僕はカメラで撮影した際にはよくチンピングをする。
なぜチンピングをするのかと言えば、構図の確認をしているのである。
たとえば、主体の位置や大きさ、写真のタテヨコのバランスを見ている。
例えば、水準器で水平を維持して撮影しても、水平であることが撮影写真の出来の良さに繋がらない場合がある。
特に広角レンズにおいてこのような印象をしばしば受ける。
シャッターを切る際に見ているファインダー像と撮影が終わった際に液晶画面で見る写真とでは感覚がまるで異なって見えるからだ。
僕はシャッターを切る際に呼吸を止めている。
手振れを起こさないように気を遣ったり、撮影のタイミングを見極めることに集中するためだ。
そのため、シャッターを切る際にはちょっとした緊張を感じている。
もしかすると、シャッターを切るときの緊張した状態とシャッターを切り終わりリラックスしたときの気持ちの違いが撮影前後に受ける感覚の相違を引き起こしているのかもしれないが、これは僕だけの感覚だろうか?
僕は写真の善し悪しは構図が大きく影響している思っている。
多少の露出の差などはRAW現像の際に追い込むことが出来るため、写真撮影時には細かく突き詰めることはあまりしない。
僕のカメラはアンダー寄りの階調表現が得意であるため、現像である程度の調整が可能だ。
しかし、構図についてはどうにもならない。
トリミングで多少誤魔化すことは出来るが満足には出来ない。
自分の行為を肯定するようで言い訳がましいが、チンピングは写真に対する熱意の表れのように感じられる。

LEICA SL2-S | LEICA Summilux-M 50mm F1.4 ASPH.(5th)

視点を変えて考えてみる。

例えば、風景やスナップではチンピング率が低いと感じる。
スナップ写真撮影において、写真の良し悪しの判断は人それぞれに感じることがある。
ファインダーを覗いたときの感覚を表現した写真や、何かにインスピレーションを受けて撮影した写真は、たとえ構図がめちゃくちゃであっても、水平が取れていなくても、ピントがずれていても、その時の写真撮りの心情が表れていると第三者に感じてもらえればそれは優れた写真となる。
直感を頼りに撮影した写真に対してチンピングは存在しない。
チンピングによりその感覚の流れを止めてしまうからだ。
大袈裟でカッコイイ言葉を使えば、トランス状態を断ち切る行為がチンピングと言える。
水平もフォーカスも気にせず、写真撮りが表現したいように撮影した写真がスナップ写真だ。

対して、鉄道や飛行機、野鳥の写真撮りもチンピング率が高いように感じる。一度撮影し、次の撮影までインターベルがあるような撮影をしている場合や以発勝負の撮影の時にチンピングをする人が多い。
また、広告写真や営業写真などの商業用の写真もチンピング率は高い。
これらの写真はスナップ写真等とは異なり、写真撮りの癖が表れない。
無味無臭。
いかに被写体が魅力的に映っているかが重要であり、写真の主役は被写体だ。そのため、写真表現に芸術性を感じることは無い、というより不要である。
だからこそチンピングが重要であるのだ。
これを突き詰めた撮影がスタジオでのテザー撮影である。
特にモデル撮影においては、撮影の度にその場で確認し、最高の表情を追求しなければならない。
テザー撮影は究極のチンピングなのである。

僕がチンピングに対して肯定的だったため、良い印象しか記さなかったが、それでもチンピングをしている人を見るとスマートではないと感じるのはなぜだろうか。
もしかすると、写真を撮る行為を客観的な視点から見た場合、チンピングをせずに撮影を続ける人のほうが絵になるのかもしれない。

美しい風景を前にひたすらとシャッターを切り続ける自分を想像してみた。
う~ん。スマートかなぁ?

竹野内豊氏が都会でチンピングをしている様子を想像してみた。
スマートに思えた。

なんで?

LEICA SL2-S | LEICA Summilux-M 50mm F1.4 ASPH.(5th)